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 『生き方が広がる出会いの場』

A子さんの場合

 『生き方が広がる出会いの場』

就労支援センター風の丘(以下、「風の丘」) :風の丘の就労移行支援を利用されて、現在団体職員をされているA子さんにお越しいただきました。少し辛いこともお聴きするかと思いますが、いまこの記事をお読みになっていて苦しい状況にいる方々の、人生の選択肢が少しでも増えていくようにという趣旨にご協力いただければ幸いです。


A子さん :いまでこそ、こんなふうに話していますけど、私も本当にどうしていいのかわからない、暗闇の中を歩いていた時期がそうとうありましたので、そんな経験が少しでもお役に立てればうれしいです。



家で寝ていても、よくならない!


風の丘:まず、風の丘に相談に来られる以前のお話をお聴きいたします。当時、一番苦しまれていたことは、どんなことでしたか?


A子さん:気分障害なので、躁と鬱の症状が激しく入れ替わり、その症状自体ももちろん苦しいのですが、ある意味それよりも苦しかったのが、自宅で休んでいてもいっこうによくならない、ということでした。


家族と一緒に住んでいましたけど、ずっと寝ていても、よくなったという感じがしない。以前体調を崩したときは、家で寝ていれば自然とよくなったのに、今回は全然よくならない。家と病院の往復のみの生活でしたから、外にも出づらくなり、次第にひきこもりのような状況になってしまいました。


当時は家にいることへの罪悪感、私はいったい何をやっているんだという罪悪感に押し潰されそうでした。というよりも、押し潰されていましたね。


そういう行き場のない感情が、どうしても家族に向かってしまうんです。些細なことで口論になったりしました。SNSをやってみても、Twitterとかで、やっぱりケンカをしてしまう。本当に暗闇の中を1人きりで歩いている感じでした。


風の丘:いま思い返してみて、その当時自分が求めていたことって、いったいどんなことだったと思いますか?


A子さん:そうですね…。

自分と同じような境遇で就職や復職を目指している、そういった人が自分以外にいるのか、それが知りたかった。もしいるのなら、そういう人たちとお会いして、いろいろとお話をしたかった。まずは、それかな…。


いま思えば、「社会との接点」ですよね。家と病院の往復になると、本当に社会との接点がなくなって、孤独になっていくんです。


朝起きても行くところもないし、やらないといけないこともないから、生活のリズムだって崩れてしまう。とにかく生活のリズムを整えたい。それには社会との接点を作り直さなければ…。そんな感じでしたね。



「社会との接点」のつくり方


風の丘: 風の丘を知ったのは、その頃?


A子さん:たまたま相談に行った先で、こんなところがありますよ、と教えられて。最初はとまどいがありましたけど、自分と同じような境遇の方々の存在を知ったことが、やはり大きかった。同じ境遇の方々と話すって、家族や病院関係者とお話しても、決して得られないような気持ちの変化を呼び起こすものだということを、改めて知らされましたね。


風の丘の就労移行支援でいえば、利用する時間とかプログラムが、とにかく「ゆるい」というか裁量の幅が大きいことも、よかったかな。それまで何か所か就労移行支援事業所を見てまわったのですが、他の就労移行支援だと、“就労するためにはこれが必要”という視点から話が始まるけれど、風の丘の場合は、まずはしっかりと自分の身体と向き合ってください、と。最初はなんのことがよくわかりませんでしたけど、それが結果的にはとてもよかった。


始めの頃だったかな、風の丘で何をするかという話になったとき、私が“勉強と楽器の練習がしたいのですが…”と恐るおそる尋ねると、“あ、いいですよ”。睡眠が不安定なので当面は1日2時間、週3回でもいいですかと聞くと、“あ、いいですよ”(笑)。


これまでの就労移行支援事業所だととても認めていただけなかったことなので、本当にいいんですかと念を押すと、“自分の身体に聴いて、そうしたいと思うのなら、まずはそこからスタートすることが大切。頭だけでかんがえるのではなく、まず身体を通してものごとを判断するようにしていきましょう”と言われて、ああ、なるほどね、と思いました。ここは、そういう風にかんがえていくところなんだなと。


風の丘:それで、どんな変化が起こりましたか?


A子さん:自分でも驚くほど、怒らなくなりました。ネットとかでもよくケンカをしてましたけど、それがなくなりました。


社会との接点がないときは、どうしてもネット中心の生活になりがちです。そうなると、ネットで起こっていることが、世界のすべてみたいな、いま思えばありえないことなんですけど、本当にそんな気持ちになっていく。それでさらに心身のコンデションを崩していくという悪循環に陥る。


やるべきことがある生活になれば、自然と生活のリズムも整っていく。そうなると、夜中にネットをすることもなくなりますから。それでやっと、現実的な今後の展望を持てるようになっていくというかね。


生活が「ふつう」になったといえばいいのかな…。朝起きて、目的の場所にいって、やるべきことをやる。それだけのことなんですが、それだけのことでも、躁状態になることが実感でもわかるくらい減りました。



「生き方が広がっていく」という回復


風の丘:これまでA子さんは「東証プライム企業」に勤め、東京で仕事をされてきた。いまは栃木県の団体職員としてお仕事をされている。さまざまな葛藤があったかと思いますが、いまの生き方をどうお感じになっていますか。


A子さん:生き方というか、仕事の仕方もそうでしたけど、以前は、なにかやりたいことがあれば、まず引き受けちゃうんです。はい、やります、って。それでいま思えば「躁」の状態に自分をもって行って、それをしようとする。でも結局身体が追いつかなくなって、最終的にはキャンセルしなければならなくなる。そして「うつ」になって、もうどうしようもない気持ちに追いやられる。その繰り返しでした。


でもいまは、まず身体の状態を確認する。そこから逆算して、やりたいことや、やるべきことを決めていく。以前のような、身体を無視した計画はしなくなりました。


いまでも体調がすぐれないときはありますが、大きく崩すことはほとんどなくなったのは、これがとても大きいと思っています。うつ病など悩みを抱えている人に、一人で抱え込んではダメだ、とよく言われますけど、好き好んで一人で抱えている人なんて、いるわけないじゃないですか(笑)。一人で抱え込まざるを得ない状況になってしまうんです。私もそうでしたし。


いまちょっとずつ生活も安定してきて、改めて思うのは、やっぱり同じ境遇で生きている人と出会うことが、とても貴重で大切なこと。病気から回復というときに、個人的によくなることを指すことが多いんですけど、それはどうなのかな、と。風の丘では、同じ境遇だけではなく、いままで想像もしてこなかったような人生を歩んできた人を知った。それが単に病気がよくなったとか、そういう次元ではない回復、自分の生き方の広がっていくような回復を感じることができた。


それがいまの自分にとって、一番変わったことなのかなと思います。

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