特別講座『精神保健福祉士とかんがえる、お金のトラブルから身を守る!』③
- 11 時間前
- 読了時間: 8分

第三回 人間関係を操る技術
今日もお忙しい時間にお集まりいただき、ありがとうございます。
おかげさまで、この『お金のトラブルから身を守る』講座も3回目を迎えることができました。
最初は少額を借りる人の危険性、2回目は人を騙そうとする人は、ふつうの人々と時間の感覚が根本から異なる、という話でした。
それで、3回目のテーマですが、人を騙そうとする人は、人間関係を操ることで、相手の意識をコントロールしようとする、ということです。
これも抽象的に話し出すと、けっこうやっかいな感じになりそうなので、いきなりですが、ロールプレイをやってみます。
ロールプレイング~上司と部下の挨拶編
B子さんとC子さん、お願いしてよろしいですか?
B子さんは新人社員、C子さんは女性社員から憧れられている上司だとします。
たいがいは新人社員が挨拶をして、上司はそれに、ふつうに挨拶を返すのが日常の風景だと思います。
じゃあちょっとC子さんと、打ち合わせをしますね。
あ、B子さんは、聞かないように(笑)。
場面は、朝、出勤したときの廊下。B子さんとC子さんがすれ違います。
B子さんは、ふつうに挨拶をしてください。
B子さん「おはようございます。」
C子さん「おはようございます。」
まぁ、だいたいふつうはこんな感じですよね。
では、ここから、ひとつ実験をしてみます。人の心って、関係を操作されることで、どんなふうにコントロールされてしまうのか、具体的にみてみましょう。
これまでは、さきほどのような、極めて当たり前のような挨拶していた上司と部下に、ある変化が起こります。
ではまず、変化初日の挨拶です。
B子さん「おはようございます」
C子さん(さっと近寄ってきて)「おはようございます」
はい、ありがとうございます。
B子さん、どんな気分ですか?
「そっと近づかれときは、一瞬、あっという気分になりました。びっくりしました」。
では、変化2日目です。
B子さん「おはようございます」
C子さん「(ニコッと笑って、やさしく)おはよう」
では、このまま続けていきますね。
変化3日目です。
B子さん「おはようございます」
C子さん(つんとしたまま、そのまま通り過ぎる)
B子さん、いかがですか?
B子さん「え、なんかもう、一瞬時間が止まった感じ…。頭が動かなくなった。」
これもしも、本当の職場でこんなことがあったら、どうなりますか?
Aさん「だって、相手は上司ですよね。もう、このことが気になって、気になって、たぶん仕事どころではないです(苦笑)」
たぶん、そうなりますよね。
では、これが最後です。
変化4日目、お願いします。
B子さん「おはようございます」
C子さん「(さっと近づいてきて、耳元で)昨日はごめんね」(B子さん、その場にしゃがみこむ)
「気持ちの全部を持っていかれる感じ」
大丈夫ですか? どうしたんです(笑)?
B子さん「もう、なんか力が抜けたっていうか。よくわからないけど、膝の力が抜けました(笑)」
B子さんには、C子さんの挨拶をいろいろと体験していただきましたが、全体的な感想はいかがですか?
B子さん「そうですね…。最初近づかれたときは驚きましたが、次に笑顔で返されたときは、理由はわからないけど、自分が好意を持たれていると確信するというか。
ところが次の日無視されたときは、どきっとして、すごく動揺しました。
そして、最終日に、あんな風に言われたら、もう、全身の力が抜けるというか、気持ちの全部を持っていかれるというか。憧れの上司にあんなことをされたら、私は、もう、無理です(笑)」
そうですね。僕たちは、ふつう挨拶って、だいたい決まった感じでしているものです。
特に職場ではそうですよね。
ルーチン化した決まりごとだから、特段心にさざ波をたてることなくそれをやり過ごし、仕事など、本来の目的に意識をむけることができる。
ところがこんなふうに挨拶の仕方を変えられてしまうと、それだけで良くも悪くも、心のあり様がいつもと異なってしまう。
相手の心を翻弄する技術
初日、2日目のように、いきなり近しい関係、親しい関係になったと思い、少し気持ちが高揚してきたところで、3日目には奈落に突き落とされ、一気に遠い存在になる。
ところが4日目には、優しい言葉を投げかけられ、再び一気にまた近しい関係になる。
人間の心って、挨拶の返し方ひとつだけで、これだけ揺さぶられてしまうものなのです。
だからね、ヘンな言い方ですが、挨拶の仕方を工夫するだけで、これだけ相手の心を翻弄できるようになる。
これって、じつは挨拶だけではありません。
ぼくらがほとんどルーチン化しているふるまい、例えばちょっとしたお願いをするときや、相手に感謝の意を伝えるとき、気分転換に雑談を話しかけるときなど、そんな日常的な、通常なら儀礼的なやりとりで済ませるところに、ちょっとした変化を入れることによって、それだけで相手の動揺を誘うことができる。
さっきのB子さんではありませんが、その動揺が上司に絡んでいるとなれば、もうね、仕事どころではなくなります。
いつもその上司のことをかんがえてしまう。何か自分が悪いことでもしてしまったんじゃないか、気に障ることでもしてしまったんじゃないかと。
この、自分でもよくわからないのだけど、「誰か」のことがいつも頭の中にあるようになってしまう。
これが、「誰か」から関係を操作されて、心がコントロールされている状態になっていますよ、ということなんです。
いつの間にか、「誰か」が自分の心に巣くう
改めていうまでもないですが、たいがいぼくらは、仕事のときは仕事に集中しているし、スポーツをしているときはスポーツに集中している。
集中しなければならないのに、いつも「誰か」が頭の中を占領している状況って、そんなにないと思うんです。
あるとすれば、家族や特に親しい知人、または仕事に絡んだごく少数の人々との間に何か起こったときなど、かなり限定的なはずです。
それでも、よほど近しい関係の人とじゃないと、なかなかそこまでの状況にはなりにくい。
ところが、前回の講座でも触れましたが、詐欺師はごく限られた期間、それもあるときは短い期間に、極めて近しい関係の人々とおなじくらいの距離感を、ターゲットになっている人に持たさなければならない。
みなさんわかると思いますが、これって、ただフレンドリーに、一方的に仲良くしようと思っても、相手がそう思ってくれない限りは、なかなか距離って近くなりませんよね。
かと言って、物理的に近づこうとしたら、ぎゃくに嫌われるだけです(笑)。
この、知らず知らずのうちに距離を縮めていく、当の本人も、まったく意識していないうちに、いつしか頭の中に、ある日から突然、まるで「誰か」が巣くってしまったかのように、自分の脳裏に居続けるようになってしまう。
詐欺師が、相手の心に入り込む技術って、それほど巧みなんです。
ここで最初の講座で紹介したケース、Aさんの缶コーヒーのケースを思い出してください。
結局、あれもね、騙されたAさんの話をよく聴いてみると、あるときはやさしく缶コーヒーをくれたかと思うと、次の日はあえて無視されたり、ぶっきらぼうに対応されたり、明日も喫煙所に来ると言っていたのに来なかったり…と、やはりいろいろと策を弄されているんです。
それでAさんは、いつの間にかその先輩社員のことが気になってしまうようになって、仕事に身が入らなくなってしまったと。
笑い話ではありませんが、業務時間の内、喫煙所の時間がもっとも重要な時間になっちゃったというんです。
相手の人間関係を内側から崩壊させる
通常の人間関係だと、近くなるにしても、だいたいは徐々に、慎重に近くなっていくものです。
特に成人になれば、大切な人間関係はおよそ決まっていますから、その優先順位を崩さない範囲で調整するのが、まず無難だし、ふつうですよね。
そうじゃないと、日常生活が不規則になってしまいますから。
そこに詐欺師は、独自の技術を用いて、ターゲットとする人の、人間関係の距離感を、あるときは一気に近づき、あるときは一気に遠のき、ということを戦略的に繰り返していくことで、その距離感覚を次第に崩していく。
前回の講座で、詐欺師は相手の常識感覚を内側から崩壊させようとすると言いましたが、人間関係も同様です。
ターゲットとする人の日常的な人間関係を、距離的に揺さぶることで混乱させ、次第に崩していき、その隙間から、ぐっと詐欺師本人の存在を注入していく。
詐欺師のふるまいによって、その人が一喜一憂するように仕向けていく。
ぼくが詐欺師に対して許せないという感情を持つのは、こうして本人の常識感覚だけではなくて、これまでご本人が大切にしてこられて人間関係を壊してしまうからなんです。
語弊がある言い方かもしれませんが、お金の損害はもしかしたら取り返せるかもしれない。
しかし、このご本人の常識感覚の崩壊、そして人間関係の崩壊は、取り返すことが本当に難しい。
被害にあわれた当初は、だいたいそのご本人ですら、ご自分の常識感覚や人間関係が崩壊させられたことが、自覚できていない状況になっているのが、通常なんです。
これで、前半の講義は終わりです。後半は、みなさまの具体的なケースをもとに、考察を深めたいと思います。
.png)



コメント