特別講座『精神保健福祉士とかんがえる、お金のトラブルから身を守る!』①
- 3 日前
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第一回 少額を借りる人
みなさん、こんばんは。今日は新年度が始まったばかりのご多忙の中お集りいただき、本当にありがとうございます。
早速ですが、特別講座『お金のトラブルから身を守る!』を始めさせていただきます。
たいがいお金に関する講座と言いますと、いかにお金を増やすかということがテーマになりますけど、あいにく常時金欠病のぼくらがそんなことをやっても、まず説得力がありません。人様に話す前に、自分の会社をなんとかしたらどうだ、と笑われてしまいそうです。
今日のテーマはそうではなくて、お金のトラブルをなるべく避けるための方法を、お伝えしたいと思っています。
精神保健福祉士として修羅場に臨んできた
ぼくは主として精神に障害のある方の就労支援をもう20年ほどやってきましたが、幸か不幸かお金のトラブルの現場は、おそらく同じ精神保健福祉士の中でも、そうとう多く経験してきたと自負しています。
理由はいろいろとあるのですが、なんといいますか、誰かお金のトラブルに苦しんでいる障害のある方がおられたとすると、とりあえず風の丘で相談してこい、みたいな流れが関係者の中でできているみたいで(笑)。それで、実に多くの現場、もっと言えば修羅場を経験させてもらってきた感じです。
それで今日、特にお話したいのは、単なる“貸したカネ、返した、返してない”的なトラブルではなくて、詐欺的な手法でお金を巻き上げられてしまうケースです。
詐欺的なケースは、詳細にみていくと加害者と被害者が微妙に入れ替わったりするので、一筋縄ではいかないこと多いんです。
今日は最初ですから、比較的加害者と被害者が明確なケースと、その対策について、みなさんとかんがえてみたいと思っています。
なるべく具体的にお話したいと思っていますので、じっくりとお聴きいただき、ご理解いただければ、おそらく詐欺というのは、びっくりするくらいパターン化されていることに気づかれると思います。
これからお話する内容は、もちろん一人の方に起こったことではありません。同様の被害ケースから詐欺パターンのエッセンスを抽出して、再構成したストーリーであることをご了承ください。
缶コーヒーから始まった
Aさんという20代前半の男性がいました。診断名は双極性障害ですが、やや波はあるものの比較的症状も安定していたため、ある自動車部品関連工場に就職いたしました。
定期的に風の丘の事業所にも顔を出してくれていて、就労後の生活も落ち着いているようでした。
半年たったあたりでしょうか、突然Aさんから“会社の人にお金を貸したのに、返ってこない”という相談がありました。
金額を尋ねると30,000円ほど。当時のAさんの月給が50,000~60,000円でしたから、本人からしたら、とんでもない大金です。
Aさんはこの給料と親御さんからの仕送りで生活をしていましたら、もう一気に生活ができなくなってしまう。Aさんから事情を聴くと、大略こんな感じでした。
Aさんはタバコが好きだったので、仕事の休憩時間はよく喫煙所に行っていたそうです。
蛇足ですけど、就労支援をしていていつも感じるのは、お金だけではなく、人間関係上のトラブルの発端は、意外と喫煙所が多い。タバコを吸わない人にはわかりませんが、喫煙者によると、普段は職場で会話もできないような立場の人が近くにいたり、タバコを吸っているときならではの打ち解けやすい雰囲気があるので、けっこう余計なことを口走りやすくなるんだそうです。
Aさんによると、ある日、Bさんという正社員の方が、“いつもがんばってるね、お疲れさん”と言って、缶コーヒーを渡してくれた。Bさんとは働いている部署も違うし、これまでまともに話したことがなかったので、最初は驚いたそうですが、それでも拒否するのもなんだからということで、美味しくいただいたそうです。Aさんによると、缶コーヒーとタバコは黄金セットだと言っていました。
ところが、次の日も同じように缶コーヒーを持ってきてくれて、気がつくと週に3、4本くらいはもらっていたらしい。Bさんは缶コーヒーを箱買いして余っているからと言っていたそうです。そうなるとAさんも、最初こそは恐縮していたが、次第に缶コーヒーをもらうことが当たり前のようになってしまった。
この人は貸したお金を返してくれる人だ
そんなある日、Bさんが、“いま持ち合わせのお金がないので1,000円ほど貸してくれないか”と言ってきた。
Aさんは、最初こそは断ろうとしたが、明日には必ず返すと言われ、これまで缶コーヒーをいただいてきた手前、どうにも断れなくなってしまった。それで貸したわけですが、その次の日、Bさんは言った通り、ちゃんと返してくれたという。
その後は、金額が2000円になったり、5,000円になったりじょじょに金額あがってきたけど、必ず翌日には返してくれた。それでBさんのことをすっかりと信じてしまった。お金を貸しても、必ず返してくれる人だと。
それで、あるとき、“3万円、貸してほしい。今度は金額が大きいので、返済は明後日でお願いしたい”とBさんが言ってきた。このときは金額が大きいので、一瞬躊躇したが、でもこれまでの経緯を思い出して、貸すことにした。
翌日、Bさんは珍しく喫煙所に姿を表さなかった。少し嫌な予感がしたが、それでも約束した日にはきちんと返してくれるものだとばかり思っていた。
そして、返済約束の日。
やはりBさんは喫煙所には現れなかった。喫煙所にいた社員にBさんのことを尋ねると、昨日退職した、と教えられた。
お金を貸したことを会社の人に言っていいものかどうか悩み、とりあえず風の丘で相談しようと思い、やってきたそうです。
それで急いで会社に連絡を入れて、ことの事情を説明しました。会社としては、社員教育上の責任は感じるが、個人的な貸し借りの被害を会社が補填することはできないという話になりました。まぁ、Aさんには申し訳ないが、これは当然だと思いました。
ひとまず、ここでこの話はいったん止めますね。
「少額」という罠
それで、このケースは詐欺的手法のモデルケースになりそうなくらい基本的な要素が詰まっているのですが、今回はその中のひとつだけご指摘しておきます。
それは、まず少額を貸してほしいと言ってくる人は、その時点で危険性の高い人だということです。
案外ぼくらは、金額が少額だったら貸してもいいかな、と思いがちですよね。このくらいの金額なら、まず返しくれるだろうと。
ところが、ここで少しひと思案していただきたい。
ぼくたちが誰かに少額のお金を借りようとするときは、いったいどんなときなのかと。
たまたま財布を忘れてしまった、とか、銀行から引き落とすのを忘れたとか、そういう場合は別にすると、おそらく少額を貸してほしいと言ってくるケースは、たいがいは2つの要因しかないと思ってください。
ひとつは、本当にお金がないときです。本人が、本当に困っている。なんとなく同情心から、少額なら貸してもいいかなと、ふと思いがちです。
ただ、ここでよくかんがえていただきたいのです。
例えば3,000円を貸してほしいと言われたとします。少額だからいいかなと思いがちですが、ここで踏みとどまってほしい。人から3,000円を借りるということは、いま3,000円のお金を用意できないということです。
僕たちが普通に生活していて、3,000円がない生活って、想像できますか?
まず普通に社会人として生活していれば、3,000円が銀行口座にもないということは、ありえないでしょう?
ところが、本当に3,000円を貸してほしいという人は、その3,000円ですらない生活をしている。ということは、まずぼくらとは、まるで異なる生活感覚を持っているということです。だから安易に、自分だったらこうする的な考え方で、自分に合わせて相手を捉えてしまうと、根本から間違えますよ、ということです。
少額がないという人は、たいがいは月々の収入よりも、多めの出費をしている人が多い。そのためつねに少額をどこからか借りているというのが、いわば当たり前の生活になっている。
ぼくが支援をしてきた実感ですと、多重債務になりやすい人は、車や家など明確なローンではなく、ちょっとした出費を重ね、そのつど金融機関や誰かから借りるということが習慣になってしまっている人が多い。それが降り積もって多重債務になる。
少額を貸してくれと言ってくる方は、多重債務の予備軍的な要素があるのかもしれない。それでも貸すというときは、まず今後もこのような貸し借りが繰り返される、あるいは貸したカネは返ってこないだろう、ということを覚悟して、貸すべきと思います。
詐欺師は、相手をとにかくよく観察している
そして二つ目が、Aさんのケースのような、最初から騙す目的。
始めは小額の貸し借りで「実績」をつくっていき、ある段階に達したときに、それなりの金額を提示し、その後借り逃げをする。
このときの「それなりの金額」が、ポイントです。
先ほどのケースでは30,000円でした。後日Aさんのご家族を交えて話し合ったとき、お父さんが、“警察に被害届を出そうかと思ったこともありましたが、そうなると会社にも迷惑をかけてしまうかもしれないので、今回は高い授業料だと本人に思ってほしい”と言われていました。
これがもし、100,000円とか200,000円だったら、また話しが違ったでしょう。
そもそも本人だけでは用意できないから誰かに相談してしまうかもしれないし、そうなるとBさんの計画はそこで頓挫してしまう。
ぼくはいつも思うのですが、人を騙してお金を巻き上げる人々の、この「それなりの金額」の設定の仕方が、ヘンな言い方ですが、あまりにも絶妙で唸らされることがあるんです。
つまり、それくらい相手のことをよく観察している。
たしかインドの諺だった思いますが、「スリはどんな聖人に会おうとも、ポケットしか見ていない」。まさに、その通りです。
詐欺師は、おそらく少額の貸し借りを繰り返しながら、自分への信頼を相手に植え付けると同時に、どれくらいの金額が上限なのかを見定めているのだと思います。
それは職場であろうと、近所の集まりであろうと、他の友好な場であろうと、詐欺師の見ている場所は、ただひとつ。その人が、カネを貸してくれそうな人かどうかです。そこだけです。
ぎゃくに言えば、いくらお金を持っている人であっても、お金を貸してくれなさそうな人は、まず相手にしません。中には、ちょっとした大仕掛けでお金を巻き上げようした詐欺師にも会いましたが、その後発覚し、警察に出頭しました。
たいがいの詐欺師は、おそらく慎重に、慎重を重ね、ターゲットを絞っているはずです。
今回のまとめ
今回のお話は、とりあえずここまで。
この講座で、最初にみなさんに押さえていただきたいことは、少額のお金を借りる人に内在する、その危険性です。
このような方と金銭的なつきあいを始めてしまったら、その後のトラブルは、まず避けられません。
では、後半は、みなさんの具体的なケースを取り上げながら、その対策を検討していきたいと思います。



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